近年、排出量取引制度とカーボンクレジットが注目され、日本でも制度整備が進んでいます。本記事では、その概要や影響、今後の展望について解説します。
排出量取引制度とは?
排出量取引制度は、温室効果ガスの排出を削減するための市場メカニズムです。国や企業ごとに排出枠を設定し、枠内で取引することで、全体の排出量を抑制します。
世界各国で導入が進み、日本でも本格的な運用が検討されています。
排出量取引制度の概要
排出量取引制度は、企業や国が定められた排出枠の範囲内で温室効果ガスを排出し、超過した場合は他の企業から排出枠を購入する仕組みです。
「キャップ・アンド・トレード」と「ベースライン・アンド・クレジット」の2種類があり、前者はEUをはじめ世界各国で採用されています。日本では、東京都と埼玉県で地域的な取引制度が導入されていましたが、政府は全国規模での導入(GX-ETS)を進めています。
これは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた重要な政策の一つと位置付けられているのが特徴です。
カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットは、温室効果ガスの削減量を取引可能な形で数値化したものです。企業や団体が排出削減活動を行うことで得られたクレジットを、削減義務のある事業者や環境対策を強化したい企業が購入できます。
ここでは国内市場の動向と、JCMとの違いについて解説します。
国内市場の動向
日本におけるカーボンクレジット市場は近年急速に拡大しています。特に政府が推進する「J-クレジット制度」は、多くの企業や自治体が利用する仕組みとして成長を遂げています。
省エネルギー対策や再生可能エネルギーの導入、森林保全などの取り組みにより創出されたCO2削減量がクレジットとして認証され、企業間で取引されるのが特徴です。
また、大手企業を中心に、自主的なカーボンクレジットの購入が増加しており、企業の脱炭素化戦略の一環として重要な役割を果たしています。今後、日本政府によるGX(グリーントランスフォーメーション)政策の一環として、市場のさらなる活性化が見込まれるでしょう。
J-クレジット・ボランタリークレジット・国際クレジット(JCM)の違い
カーボンクレジットには複数の種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
- J-クレジット:日本政府が認定する制度で、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入によるCO2削減量をクレジット化します。国内の企業や自治体が参加しやすいのが特徴です。
- ボランタリークレジット:民間主導で運営されるクレジットで、企業が自主的にカーボンオフセットを行うために利用されます。代表的なものとして、VCS(Verified Carbon Standard)やゴールドスタンダードがあります。これらは国際的な基準に基づいて認証されるため、グローバル市場での利用が可能です。
- 国際クレジット(JCM:Joint Crediting Mechanism):日本と開発途上国が共同で実施するプロジェクトを通じて、温室効果ガスの削減を実現し、その成果を両国で分配する仕組みです。日本企業が技術提供を行い、相手国での排出削減を支援することでクレジットを獲得できます。
これらの制度は異なる目的で運用されていますが、共通しているのはCO2削減を促進し、持続可能な社会の実現に貢献する点です。今後、各制度の活用が進むことで、日本の脱炭素政策の推進が加速すると考えられます。
GXリーグとの関連
GX(グリーントランスフォーメーション)リーグは、日本政府が推進する脱炭素経済への移行を支援する枠組みの一つです。企業が排出削減の取り組みを進める中で、排出量取引制度やカーボンクレジット市場と密接に関わっています。
GXリーグに参加する企業は、クレジットを活用することで排出削減目標の達成を目指すとともに、国際的な競争力の向上を図ることが求められています。
また、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、企業間の連携やクレジットの適正な流通が重要視されているのです。今後、GXリーグを通じた企業の排出削減の枠組みがどのように進化していくのかが注目されます。
需要家にとっての影響と対応策
排出量取引制度やカーボンクレジット市場の拡大により、需要家にも大きな影響が及びます。特に、エネルギーを多く消費する製造業や物流業界では、炭素コストの上昇が避けられない状況です。そのため、排出量取引制度に適応するための具体的な対応策が求められています。
一つの有効な対策として、省エネルギー技術の導入や再生可能エネルギーの活用が挙げられます。例えば、工場や事業所でのエネルギー管理を最適化し、排出量を削減することは、長期的なコスト削減につながります。また、カーボンクレジットの購入を通じて、実質的に排出量をオフセットする手法も重要です。
さらに、企業のサプライチェーン全体での脱炭素化が進められる中、取引先に対するCO2排出量の開示が求められるケースも増えています。対応するためには、排出量の計測・報告・検証(MRV)を適切に行い、企業の環境負荷を可視化することが不可欠です。
今後、排出削減に積極的な企業は市場での評価を高める一方、対応が遅れる企業は競争力を失う可能性があるため、早期の対応が求められています。
今後の展望
排出量取引制度やカーボンクレジット市場は、今後さらに重要性を増していきます。政府のカーボンニュートラル政策が加速する中、企業や自治体が排出削減を進めるための制度が強化される見込みです。
ここでは、今後のスケジュールについて解説します。
今後のタイムスケジュール
排出量取引制度とカーボンクレジット市場は、2025年3月現在、制度運用の初期段階から次のフェーズへと移行しつつあります。今後は、政府の方針や国際的な動向を受けて、さらなる拡充と制度整備が加速していく見通しです。
2024年度には、日本政府が「GX基本方針」に基づき、排出量取引制度の本格運用を開始しました。この段階で、多くの企業が温室効果ガスの排出削減目標を設定し、クレジットの取引市場にも活気が見られるようになりました。
2027年度には、排出量取引市場(GX-ETS)が開設されて本格稼働する予定です。年間CO₂排出量10万トン以上の大規模企業を対象に、排出量取引の義務化・本格運用が開始されます。
政府が掲げる「2030年度、2013年度比46%削減目標」や「2040年度、2013年度比73%削減目標」の達成に向け、排出量取引制度の規制強化やカーボンクレジット市場のインセンティブ拡充などが進むと予想されます。その過程では、クレジット価格の上昇や市場の透明性確保といった課題にも対応する必要があるでしょう。実際、Jクレジットの価格は、ここ数年で2倍に上昇しています。

最終的に、2050年のカーボンニュートラル実現を目指すうえで、これらの制度は企業の脱炭素戦略において欠かせない柱となります。変化のスピードが早まる今、企業は制度動向を的確に把握し、早期から対応を進めることが、将来の競争力確保につながるでしょう。
カーボンニュートラルに向けて
日本の排出量取引制度とカーボンクレジット市場は、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な役割を果たしています。
排出量取引制度は、企業の温室効果ガス削減を促す仕組みであり、カーボンクレジット市場では削減プロジェクトを通じたクレジット取引が行われています。J-クレジットやJCM、ボランタリークレジットなどが活用され、GXリーグとの連携も進んでいるのが特徴です。
今後、市場の拡大が見込まれ、企業は制度を活用しながら排出量管理を進めることが求められます。今後、新たな制度の導入や国際市場との連携が進む見通しであり、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが一層重要となるでしょう。